その参考となるデータセットにStandard Cross-Cultural Sample (SCCS) があります。文化人類学者であるジョージ・マードックらによって1960年代よりデータの整備が始まり、民族誌の記述をもとに、離れたところに存在する複数の集団を同一の尺度で測ることを試みました。税や贈与の水準、司法に類するものの有無、経済的不平等の状況などが記録されています。
文化人類学では1つの場を徹底的に観察することが基本です(複数の場所 (multi-site) を扱うこともありますが)。SCCSは本書が依拠するV-Demと同様、計量的な多地点間の比較なので、これとは対極的な手法による研究成果と言えます。半世紀前の文化人類学は現在に比べ、方法の面で緩やかだったと言えそうです。
SCCSには一般的なイメージとは反する数値も見られます。例えば、複雑度の高いインカとアステカでは経済的不平等が大きいことが予想されますが、インカはアステカよりも不平等の水準がはるかに低いことになっています。SCCSに問題があるのか、直観の方が間違っているのかは検討の余地があるかもしれません。
最近、贈与に関するシミュレーションの結果をSCCSと対応させ、社会の階層化を説明する論文が発表されました。複雑度が高いほど、社会階層が生まれ、経済的な格差が生じますが、社会階層と経済格差はどちらが先に生じるのかを明らかにしています。贈与を受けた人が相手に同等の贈与を返すことができず、そのことに少しでも負い目を感じることが格差や階層を生むという指摘も興味深いです。
