カタカナ表記の難しさ

2023年9月26日火曜日

投稿者:宮地 隆廣

第1章 第4章 第6章

t f B! P L

本書では、日本語でない固有名詞の表記を大貫良夫ほか監修2013『新版 ラテンアメリカを知る事典』(平凡社)全国歴史教育研究協議会編2022『世界史用語集 改訂版 アプリ付き』(山川出版社)に依拠しました。実際のところ、これは悩んだ末の決定でした。これらの書籍の表記が筆者の望ましいと思うものと一致するとは限らなかったからです。

写真の人物は20世紀初頭に活躍したウルグアイを代表する政治家ホセ・バッジェです(第4章)。バッジェのつづりはBatlleで、スペイン語のllは日本語のジャ行やリャ行で書くことが一般的ですが、ウルグアイと隣国のアルゼンチンではllをシャ行で発音するので、バシェと書くのが正確です。最近刊行された山口恵美子編2022『ウルグアイを知るための60章』(明石書店)でもバシェと書かれています。

アクセントの扱いも難しいところです。スペイン語のカタカナ表記では、アクセントがある母音を伸ばして記す傾向があります。20世紀後半にパナマの軍事政権を率いたトリホス将軍(第6章)を例に挙げれば、名前のOmarはオマールと書くことになります。しかし、実際の読み方はaを伸ばすのではなく、あくまでアクセントを置いている、つまり強く読んでいるだけです。

ただ、気になる点を全て直すと、一般な読み方と対応がつかなくなるという別の問題が生じます。ラテンアメリカの植民地化の端緒を開いたクリストファー・コロンブス (Christopher Colombus) は英語の呼称に基づく表記ですが、スペイン語ではクリストバル・コロン (Cristóbal Colón) 、彼の出身地とされるジェノバで現在話されるイタリア語ではクリストフォロ・コロンボ (Cristoforo Colombo) になります。コロンやコロンボという名前を見てコロンブスを想起することは簡単ではないでしょう。

今回は分かりやすさを優先し、一般的な表記に従いました。しかし、それは同時に、根拠なく定着してしまった読み方を追認することにもなるのが、悩ましいところです。

QooQ