民主主義と民主制

2023年9月20日水曜日

投稿者:宮地 隆廣

第1章

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本書は全体を通じて、ラテンアメリカ諸国で民主化がどのように進んだかを扱っています。例えば、第1章ではV-Demを用いて、世界各国の民主化の傾向を確認しつつ、ラテンアメリカ諸国の全般的な特徴を示しています。ところが、本書には民主主義という概念がほとんど登場しません。

これは、本書が民主制という概念を用いていることによります。

民主主義は英語のdemocracyの和訳で、「一部の特権者ではなく、自由で平等な市民が全員参加して統治する」ことを指しますが、この意味を踏まえて大きく2つの使い方があります。第一に、「そのような統治を目指すべき」とする思想やイデオロギーとしての用法があります。そして第二に、「そのような統治である」という政治体制の実態を記述する概念としての用法があります(川出良枝・谷口将紀編 2022『政治学』第2版、東京大学出版会「はしがき」)。

この訳の妙は「主義」という概念にあります。「主義」もまた、「正しいと信じて守る一定の主張」と「特定の原理に基づく社会体制、制度など」の意味があります(『日本国語大辞典』)。前者が第一の、後者が第二の用法に該当します。

一方、本書が依拠するV-Demでは、政治体制が民主的であるか否かをスコア化するのにあたり、民主的な体制をdemocracy、そうでない体制をautocracyという語で表現しています。このdemocracyは第二の用法です。政治学において民主的な体制はdemocratic regimeという言い方をすることが多く、「民主主義体制」「民主政治レジーム」などと日本語で訳されますが、V-demは1つの単語で表現しています。

V-demのdemocracyを単に「民主主義」と訳すと、意味が第二の用法に限られていることを表現できません。また、democratic regimeと同じ意味であることを理由に「民主主義体制」と訳すと、V-Demが一単語で民主主義体制を表現している感じを表現できません。そこで、このdemocracyが体制であることを短く明示する目的で「民主制」という訳を当てています。

なお民主制という訳は、その対概念である権威主義や専制の扱いにも関わります。この点については、別の記事で説明します。

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