これは、本書が民主制という概念を用いていることによります。
民主主義は英語のdemocracyの和訳で、「一部の特権者ではなく、自由で平等な市民が全員参加して統治する」ことを指しますが、この意味を踏まえて大きく2つの使い方があります。第一に、「そのような統治を目指すべき」とする思想やイデオロギーとしての用法があります。そして第二に、「そのような統治である」という政治体制の実態を記述する概念としての用法があります(川出良枝・谷口将紀編 2022『政治学』第2版、東京大学出版会「はしがき」)。
この訳の妙は「主義」という概念にあります。「主義」もまた、「正しいと信じて守る一定の主張」と「特定の原理に基づく社会体制、制度など」の意味があります(『日本国語大辞典』)。前者が第一の、後者が第二の用法に該当します。
一方、本書が依拠するV-Demでは、政治体制が民主的であるか否かをスコア化するのにあたり、民主的な体制をdemocracy、そうでない体制をautocracyという語で表現しています。このdemocracyは第二の用法です。政治学において民主的な体制はdemocratic regimeという言い方をすることが多く、「民主主義体制」「民主政治レジーム」などと日本語で訳されますが、V-demは1つの単語で表現しています。
V-demのdemocracyを単に「民主主義」と訳すと、意味が第二の用法に限られていることを表現できません。また、democratic regimeと同じ意味であることを理由に「民主主義体制」と訳すと、V-Demが一単語で民主主義体制を表現している感じを表現できません。そこで、このdemocracyが体制であることを短く明示する目的で「民主制」という訳を当てています。
なお民主制という訳は、その対概念である権威主義や専制の扱いにも関わります。この点については、別の記事で説明します。
