新興政党の政権獲得

2026年4月17日金曜日

投稿者:宮地 隆廣

第11章 第12章

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<背景>

第11章と第12章は21世紀の左傾化を取り上げています。この時期の左派政権の与党には、主要な政党として長らく活動し、組織が制度化している(意思決定が分散している)伝統政党と、そうではない新興政党があります。そして、新興政党の政権では、権限を集中して持つ党首=大統領が望む政策を実現すべく、言論の自由を奪うなど民主制の後退が見られることを指摘しました。

これに関連して、国内国外のメディアで近年、ラテンアメリカで新興政党の政権が増えていることが指摘されています。しかし、新興政党が政権を取ることはラテンアメリカでは以前からあり、その原因についても多くの検討がなされてきました。本書の応用版であるテキストの第5章と第7章には関連する先行研究がレビューされています。

<データ>

現在の状況は特異なのでしょうか。1980年1月から2026年3月までに任期を務めた文民の執政主(大統領など執政府の長)を対象にデータを集計しました。この間、一党支配を続けたキューバを除いた19の国が対象国です。

執政主の所属組織が伝統的であると言うには、その任期が始まる前に、政界に一定の存在感を持っている必要があります。ラテンアメリカにおいて大統領の任期は4年以上であることから、ここでは任期開始から4年以上前に実施された議会選挙(二院制なら下院選挙)のうち、最も新しいもので得票率5%以上の党を伝統政党とします。また、新興政党が総選挙で連勝した場合、二度目の勝利をもって新興政党は伝統政党になりますが、下野するまでは新興政党として扱います。

新興政党を青無所属を赤伝統政党を黄で示した積み上げグラフは次の通りです。1980年代は軍人が大統領である国が多いため、文民政権の数が少なくなっています。上下に突き出すような線は一時的な政権の空白など短期的な政権の変化を示しています。


民主制への移行が一通り完了した1990年代半ばから、非伝統政党による政権はおおむね3から5の間で推移してきました。この傾向が崩れたのは2010年代の後半で、政権数は増加傾向に転じ、2025年には10か国に達しています。これはラテンアメリカ諸国の半数に及ぶもので、前例がありません。

<地域レベルの原因を指摘することの問題点>

ラテンアメリカは2010年代後半から現在まで、新型コロナウイルス感染症の影響を含め、不況にあります。先述の国内メディアの報道では、不況で貧富の格差が解消しないことが与党に不信を与え、新興政党の台頭を招いたと説明します。現職の再選が困難になったことは確かですが、この説明ではなぜ伝統政党の野党が選ばなかったのかに答えられません。

また、ラテンアメリカでは21世紀に貧富の格差が改善したと言われています。格差の指標であるジニ係数を世界銀行ウェブサイトから入手可能な国について集めると、過半数の国でデータが揃う2023年までは次のように推移しています。細線は各国、太線は各年平均のグラフです。

貧富の格差が原因であるなら、新興政党の政権は20世紀にこそ多発するはずです。しかし、先に述べた通り、その数は2010年までは安定して少ないままでした。さらに言えば、不況である2010年代後半から現在に至るまでもまた、ラテンアメリカ全体では格差が縮小傾向にあることも見逃せません。

先述の国外メディアでは、民主制に対する有権者の幻滅が指摘されています。与党であれ野党であれ、政党政治がいつも同じ顔ぶれで戦われる一方、貧富の格差や治安など社会的な問題が対処されていない現実を前に、変化を求める有権者が新興政党に票を投じるという説明です。これは、ラテンアメリカ政治研究者がよく言う代表制の危機と呼ぶものに関連しています。

しかし、データを細かく見ると、ラテンアメリカ全体が危機に置かれているわけではないことがわかります。今回のデータセットから国別でガントチャートを作ると次のようになります。青が新興政党赤が無所属黄が伝統政党で、色の薄い部分は専制のもとで選出された執政主であったことを意味します(本書における民主制・専制の定義はこちらです)。チャートの右側の数値は、民主制のもとで執政主が伝統政党に所属していた期間の比率です。

ここまで見ると、近年見られる新興政党の政権獲得の増加は、貧困や格差、不況、SNSの普及など、地域全体の現象で説明するよりは、そのような不安定化要因について、(1)それが作用しうる前から伝統政党が弱い(ペルーなど)、(2)最近弱くなった(メキシコやチリなど)、(3)その作用を受けても伝統政党が強い(ウルグアイなど)国に分けて考える必要がありそうです。また、伝統政党に対する信頼感は非伝統政党の信頼感と相対的なものなので、伝統政党が何をしてきたのか、そして誰が非伝統政党を担い、何を訴えたのかという政党活動の中身に迫る必要もありそうです。政党の制度化を規定する選挙制度など、従来の研究が着目してきた要因と合わせ、原因を特定するには慎重な作業が求められます。

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