第11章では、ラテンアメリカでは1990年代末より左派政権数が急激に増える、左傾化と呼ばれる現象を扱いました。これを受け、最近の状況を扱った第12章では、1990年から2022年までのラテンアメリカ20か国における左派政権数を示しています(図12-2)。
第11章にて左派か否かを判定する評価にはV-Dem政党データセット (V-Party) の経済左派・右派スケール (v2pariglef) を用いています。値は0(極左)から6(極右)まで7段階あり、そのうち0から2までのスコアを持つ政党に大統領など執政府の長が所属していれば、左派政権であるとします。一部の政党はV-Partyの評価から外れているため、その場合は主たる学術論文をもとに、左派であるか否かを判断しています。
図12-2には、執政府の長が選出された時点での政治体制も示されています。本書では第1章で体制スコア(V-Demの選挙民主主義指標)が0.4以上の体制を民主制、それ以外は専制としています。
昨年までの記事では各年1月1日時点での政権数を積み上げ棒グラフで示しましたが、今回は政権数を日単位でカウントし、積み上げ面グラフで示します。青は民主制下で選出された政権、赤は専制下で選出された政権数です。1990/1/1から2026/3/15までのデータセットはこちらです。
c. 均衡?(現在まで)
2025年頭の左派政権数は10でしたが、本記事を執筆した2026年3月末の時点で7まで下がりました。これは、2022年1月以来、4年ぶりの低水準ですが、近年の最低値である6には達していません。2026年にはコロンビア、ペルー、ブラジルで選挙が予定されており、コロンビアとブラジルは左派政権であるため、政権数は今後5まで下がる可能性があります。この場合、2003年1月以来、約23年ぶりの低水準となります。
この減少傾向を有権者の「左派疲れ」とする指摘もありますが、そう名付けるに値する特異な現象であるかは、現時点では不明です。グラフを見ると、左傾化が終わってから現在まで(bの後半からcまで)、左派政権数が10から6の間を周期的に前後しているように見えます。筆者を含め、複数の議論が指摘しているように、これは2014年から現在までラテンアメリカは総じて不況であり、現職の再選が難しく、政権が交互に左右に動いていることを示唆しています。つまり、左派政権の現象は左派の思想に対する有権者の疲弊ではなく、現職にノーを突きつけた時、現職が左派だったに過ぎない可能性があります。
また、2020年に入ってからの左派政権の増減について、「ピンクタイド(左傾化)の異変」や「第二の左傾化」と評することは適当ではないと言えます。左傾化とは、新自由主義に対する反動という地域共通の経験を背景に、政権数が11も増えた顕著な変化を指します。2020年以後の増加は4にすぎず、それが何か地域共通の経験に基づいているわけでもなく、近年(時期c)を10年前に終わった左傾化(時期a)の延長線上として捉えるのはあまりに無理があります。
