国内植民地主義(1)ゴンサレス=カサノバ

2025年4月27日日曜日

投稿者:宮地 隆廣

メキシコ 第2章 第4章 第5章 第6章

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独立という現象は一般に、支配されていた人々が支配していた人から自由になることを意味します。第2章では、ラテンアメリカ諸国の独立がこのイメージに合わないことを説明する際、国内植民地主義(スペイン語ではcolonialismo interno)という概念を紹介しました。具体的に言えば、ヨーロッパ系住民(白人層)が独立前のみならず独立後も政治を支配し、先住民や黒人など非白人層は被支配的な立場のままであることを、この概念は表現しています。

国内植民地主義を唱えた人物として知られるのはメキシコの政治学者であるパブロ・ゴンサレス=カサノバ (Pablo González Casanova) です。メキシコは20世紀の大半にわたり制度的革命党 (PRI) による専制的な一党支配体制にありましたが(第5章)、言論の統制が厳しい中でも同国の政治を積極的に批判した人物です。大変長命で、1922年に生まれ、2023年に101歳でこの世を去りました。死後には彼の業績を再評価する動きもあり1、政治研究者の組織化や育成、学問の垣根を越えた活動の広がりなど多様な貢献が注目されています。

代表作『メキシコの民主主義 (La democracia en México)』(初版1965) は、ロックやルソー、マディソンらの議論と照らしつつ、メキシコの民主主義の特徴を考察しました。メキシコの民主主義とはPRIやその支持者による自己正当化のためのレトリックであり、実際には政府が脅迫や買収、プロパガンダの流布を通じて市民を操作し、政治から排除しているというのが、この本の主張です。そして、先住民が支配される立場にあることも独立前後で変わっていないことを指摘し、こうした状況を国内植民地主義という概念で表現しました。

注意しなければならないのは、『メキシコの民主主義』がメキシコ政治の排他的性格を説明する上での理由づけです。ゴンサレス=カサノバの著作はほぼ必ずマルクス主義に言及しますが、同書もレーニンの帝国主義、簡単に言えば資本主義が世界に拡大する過程において、資本を有する者がそうでない者を搾取するという構図の中にメキシコ社会を位置づけます。

資本を有する者の頂点に立つのは欧米諸国、とりわけメキシコの隣国である米国です。そして、米国に従属するメキシコ社会にも支配と従属の関係が見出されます。メキシコで政治権力(政府を動かす力)と経済権力(産業を所有し、運営する力)を支配する都市在住の白人層や混血層は欧米諸国と利害を共有した支配者であり、農村に住む先住民がその支配を受けているとされます。このように、政治経済活動・居住地域・エスニシティという3つの側面でメキシコ社会は二分されていて、自国社会の文化的価値や尊厳を軽視した政治が市民に押し付けられていると本書は説明します。

メキシコの歴史を振り返れば、植民地期以来の政治エリート(オリガルキー)を打倒する運動であるポピュリズムが全国的な反乱として出現し(第4章)、1910年の革命によってオリガルキーの政府が倒されました(第5章)。革命を機に植民地期以来の支配者が追放されたのであれば、国内植民地主義はそれで終わりを迎えるはずです。しかし、外国に基盤を持つ専制的政治体制は植民地体制でも、独立後も、そして革命以後も変わっていないというのが『メキシコの民主主義』の主張です2。

大きな変動が起きても、政治の根幹に変化はないという問題意識は、革命を批判的に考え直す上ではよく採用される考え方です。ゴンサレス=カサノバはこの発想をメキシコを含むラテンアメリカに広く応用した人物ということになります3。そして今日では、国内植民地概念はラテンアメリカ以外の地域における議論にも応用されています。

しかし、『メキシコの民主主義』が出版されて半世紀以上が経過した現在、その議論に対する批判も出されています。この点については、記事を改めて説明します。

1 ゴンサレス=カサノバが学長を務めたメキシコ国立自治大学のオンラインイベントや、ブラジル・サンパウロ大学の雑誌など。
2 なお、『メキシコの民主主義』が出版された当時は冷戦の只中にあり、キューバ革命の影響から、武力による政権の打倒がラテンアメリカで広く注目されていました(第6章)。しかし、本書は武力革命を唱えず、市民が自己決定の権利を回復するよう、政府に対して継続的な運動を行うことを訴えています。
3 『メキシコの民主主義』よりも前に出版された、革命の保守性を指摘する代表的な論考としてアレクシス・ド・トクヴィル『旧体制と大革命』がありますが、『メキシコの民主主義』もトクヴィルに言及しています。その際、具体的な事件に根差した深い省察を生み出した人物としてトクヴィルを高く評価しつつ、計量的分析に傾倒する米国政治学を批判している点は興味深いところです。なお、ゴンサレス=カサノバのアンソロジーの前言によれば、『メキシコの民主主義』以前から、ゴンサレス=カサノバはメキシコのみならずラテンアメリカ全体を意識して国内植民地を使っていたとされます。


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