ポピュリズムの多様な意味とその重なり

2024年5月22日水曜日

投稿者:宮地 隆廣

アルゼンチン ブラジル ベネズエラ 第11章 第12章 第4章 第5章 米国

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第4章では、ラテンアメリカ政治史におけるポピュリズムは、歴史の文脈に即して定義されることを示しました。つまり、ラテンアメリカ諸国において独立以前から政治的・経済的に有力な人々(オリガルキー)に対抗する、多様な階級に属する人々の運動がポピュリズムです。ところが、授業でこの解説した後、ポピュリズムの意味を問うと、大衆迎合的な政治姿勢や運動と答える例が多く見られます。これは、インターネットで「ポピュリズム」を検索した結果の中から、分かりやすいものを選んで答えたものと思われます。

この回答には2つの問題があります。第一に、ラテンアメリカ政治史におけるポピュリズムを、一般的な意味のポピュリズムと同じものとして考えています。先に示した通り、前者はラテンアメリカ政治史に登場する特定の集団に基づいて定義されます。

第二に、今日の政治学では、一般的な意味でのポピュリズムを厳密に定義して使います。定番の解説書であるRovira Kaltwasser, C. et al. eds. 2017. The Oxford Handbook of Populism. Oxford University Pressはポピュリズムを3つのアプローチから特徴づけています。いずれも大衆迎合の意味を含んではいますが、指し示す対象が異なり、かつ具体的であることに注意が必要です。

(1)観念的
(ideational) 
汚れなき人民と腐敗したエリートという、対立する2つのグループに社会を分け、政治は人民の一般意志の表現であるべきとするイデオロギー。

(2)政治戦略的
(political-strategic)
個人主義的なリーダーが、組織化されていない大規模な支持者からの直接的かつ非制度的な支持を基盤にして、政治権力を追求したり、行使したりする政治的戦略。

(3)社会文化的
(socio-cultural)
あるいは関係的
(relational)
リーダーと支持者が「低い」(low) ことを顕示して (flaunting the "low") 結びつく関係。きちんとしている (decent) ことを基準に考え、対話や共存を重んじ、法を遵守し、丁寧な言葉遣いを好むのが「高い」(high) こと、相手を攻撃し、自分の仲間を優先し、法を軽視し、粗暴な言い方を好むのが「低い」ことの例である。

(1)は近年よく用いられるアプローチです。同書の編者も参加する研究者集団「チーム・ポピュリズム (Team Populism)」は、首相や大統領がどの程度ポピュリズム的かを、就任演説などの発言を根拠にスコア化する試みを進めています。複数の専門家が各発言を0(ポピュリズムでない)、1(ポピュリズムの要素が一部ある)、2(ポピュリズムである)の3段階で評価します。次の表は主なブラジルの大統領のスコア平均値です。参考までに、ポピュリズムとよく称される他国の政治家のスコアも示します。

ブラジル大統領 任期 スコア平均値 他国の大統領 任期 スコア平均値
J. ヴァルガス 1934-45 1 J. D. ペロン(アルゼンチン) 1946-55 1.5
J. ヴァルガス 1951-54 0.917 


ルラ 2003-10 0.25 H. チャベス(ベネズエラ) 1999-2006 1.917
D. ルセフ 2011-14 0 H. チャベス(ベネズエラ) 2007-13 1.75
D. ルセフ 2015-16 0.334 N. マドゥロ(ベネズエラ) 2013-* 1.64
M. テメル 2016-18 0


J. ボルソナロ 2019-* 0.5 D. トランプ(米国) 2017-21 0.779

* 分析されている発言データは2022年まで。

「ブラジルのトランプ」と称されるボルソナロはもちろん、トランプ自身もまたスコアは高くありません。21世紀の左傾化(第10章)を代表する政治家であるルラも、改革的言説が国民に受けたという意味で大衆迎合的=ポピュリズムに属すると報じられることがありますが、やはりスコアは低いです。これに対し、ラテンアメリカのポピュリズムの代表的人物であるペロン、ルラとともに左傾化を象徴する人物であるチャベスやマドゥロの発言はポピュリズムの純度が高いと言えます。

政治戦略に着目する(2)の定義は、既存政党に属さず、大衆の熱狂的支持を受けたペロンやチャベスのイメージに合っています。しかし、二人とも後に自ら党を整備し、市民団体を支持基盤にしていったこと(第5章、第10章)を考えれば、組織性の乏しさを特徴とするポピュリズムがいつまでポピュリズムなのかが議論できそうです。また、再びルラを取り上げれば、組織化された政党と労組を基盤にしていた以上(第10章)、やはりこの定義にも当てはまり難いところがあります。

(3)の定義は、多様性や生命の尊重など改革派のエリートが唱える理想を嫌い、移民排斥や銃の所有・使用の自由を支持する欧州や米国のポピュリズムのイメージに合っています。一方、ラテンアメリカの文脈で考えると、やはり議論の余地がありそうです。ポピュリズムが力を得た20世紀前半にせよ、左傾化が起きた21世紀初頭にせよ、既存の政治が自由や平等などの理想を体現しなかったことへの怒りが原動力になっている点は、きちんとしていることを求めた「高い」姿勢を持っている側面もあるからです。

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